Titan Pocket
Unihertzが繰り出す「Titan Pocket」は、珍しい3.1型のディスプレイと物理キーボードを備えたスレート型のAndroidスマートフォンだ。現在クラウドファンディングサイトKickstarterで出資を募っており、製品リターンを得られる最小出資額は約221ドルとなっている。今回製品の正式投入に先立ってサンプルを入手したので、早速レビューしていこう。
キーボード好きのためのデバイス
Unihertzは上海に拠点を置くAndroidスマートフォン開発企業だ。超小型の「Jelly」シリーズから一躍有名になった同社だが、タフネスで小型の「Atom」と、キーボード付きスレート形態の「Titan」を立て続けに投入。Titan PocketはそのTitanシリーズの最新作だ。
最大の特徴はなんと言ってもスレートでありながらQWERTYキーボードを搭載しているスタイルに尽きる。スマートフォンでキーボードを搭載している端末といえば、かつてのシャープの「W−ZERO3」シリーズが代表するような、キーボード未使用時は隠しておけるスライダー形式が主流。これは電話として使う際にキーボードが不要という発想から来ているのだろう。未使用時に誤入力を防げる、フットプリントを減らせるというメリットもある。
一方で本機のようなスレート型は、これらのメリットは享受できない。特に画面を一般的なスマートフォンと同じ縦長にすると、縦に長い端末になってしまうのが欠点だ。しかし、キーボードを使いたいときに画面を回転せずにそのまま使える、薄型化しやすいというメリットがある。実際にこの形状を採用していた端末としてはBlackBerryシリーズがあるのだが、本機はそれをオマージュした形だ。
本機ではQWERTYキーボードを採用しながら、ガジェットとしての奇抜さと携帯性も重視しているため、画面を小型化している。具体的には、716×720ドットという、アスペクト比がほとんど1:1の3.1型液晶を採用している。
実は本体サイズはそこそこ大きいが、十分小ささが感じられる
考えてみれば、5型前後のスマートフォンで、ソフトウェアキーボードを表示させておいた場合、実際に表示される面積が3型前後であると考えられる。そのため、キーボード入力が前提ならこの小ささは意外にも実用的で、特別違和感を持つことなく使えたりする。
サイズ感としても期待にそぐわぬ小型さで、小型ガジェットが好きなユーザーなら、手にした瞬間思わずニヤリとすることだろう。ところが実際のサイズは73.2×132.5×16.8mm(幅×奥行き×高さ)と、意外にも大きめ。フットプリントで言えば、手持ちの5.2型のHuawei P9の上下をちょっと切って、厚さを2倍以上にしたようなものだ。重量も実測で220gと重い部類に入る。
それでもなお本機に妙な小型デバイスとして見え、そのガジェットとしての魅力のある世界観に引き込まれるのは、やはりそこに物理のQWERTYキーボードがあって、その上に小さな3.1型液晶があるからであろう。
重量は公称で216g、実測220gだった
気になるキーボードの使い勝手は?
というわけで気になるキーボードの使い勝手だが、結論から言えばかなり実用的であり、キーボードにうるさい筆者としても頷けるものだった。メーカーはこのキーボードをユーザーに使わせる気満々なのが伝わってくるのだ。
まず配列についてだが、さすがにサイズを抑えていることもあってかなり特殊。アルファベットについてはワンプッシュで入力できるが、それ以外はEnterとBackSpaceとスペースバー、Shift、Alt、fn、symキーのみとシンプルだ。
本機のQWERTYキーボード。Shift、sym、fn、Alt、Enter、BackSpace、スペースを除けば、アルファベットしかない。バックボタンとタスク切り替えボタン、ホームボタンとして機能する指紋センサーを除外すると33キーだ。記号の多くはAltキーと同時押しとなる
キーボードにはアルファベット以外にもう1つの刻印があるのだが、これはAltキーと同時押しで入力できる。例えばよく使う例としては句点(B)や読点(N)、ハイフン(U)、アットマーク(A)、数字などがそれに当たる。
しかし、アルファベットならそのままワンプッシュ、Altと同時押しすれば記号や数字が入力できるという、シンプルな操作体系に洗練/集約されている。ワンプッシュで入力できる記号とそうでない記号を分けて覚える必要がないのだ。加えて、刻印も2つに絞られているので、迷うことはまったくない。中途半端に記号を独立させたキーボードや、数字入力や記号入力でいちいちタップして切り替えなければならないソフトウェアキーボードよりはるかに効率的だ。
スペースバーはVとBの間に来ているという変則的な配列でもあるのだが、これも意外にすんなり受け入れられた。スペースバーは周囲のキーとは突起の方向が異なるので、すぐに区別がつく。配列はコンパクトなのにかなりよく考えられていて、1日ちょいですぐに慣れてしまった。
本機は、企業向けで一世を風靡したBlackBerryのキーボードを擬えた配列(若干の違いもある)なのだが、BlackBerryのキーボード配列がそれだけ完成度が高かったことを裏付けるものだろう。未体験ユーザーにはぜひこの素晴らしさを知ってもらいたいし、ユーザーならすぐに慣れるとは思う。
すぐ慣れた理由のもう1つが、そもそも打ちやすい感触や形状のキーであることだ。硬すぎず柔らかすぎずちょうどいい塩梅のクリック感はもちろんだが、キートップの個々が手前にわずかに傾斜していて、この工夫で今何段目のキーに触れているのかすぐに分かり、ミスタイプを回避できる。この点も人間工学デザインのセンスを感じた。
ちなみに標準ではKika-keyboardと呼ばれる、内蔵キーボードに適した入力法が選択されているが、筆者のような仕事では文中で英単語を多く使うため、Shiftキーとアルファベットを入力すると自動的にそれが英文入力となるGboardの方が使いやすかった。
標準搭載されたKika-Keyboard
なお上部中央には指紋センサーがあり、ホームボタンとして機能する。手にしたその日はテキスト入力の際に指紋センサーに手が当たって入力が中断されることもあったが、コツを掴んでからはそのようなこともなくなった。ちなみにその左右の2つのキーはバックボタンとタスク切り替えボタンなので、キーボードの説明から省くことにする。
小型デバイスのキーボードについて多く見てきた筆者だが、Titan Pocketのそれは、個人的に過去に高く評価していたソニーの「CLIE PEG-UX50」やHTCの「EMONSTER(S11HT)」並みか、それ以上の完成度だと感じた。製品を入手するまで、写真で見ててうーんと首を傾げていたが、実際使ってみるとふむふむなるほどと、妙な納得感に浸った。
このレビューも、すべてTitan Pocket自身のエディタ上で書いている。やはりソフトウェアキーボードと同じく、キーを見ながらタイプすることが多くなってしまったが、画面を見つつと言っても小ささから視線移動が少ないうえ、そもそもミスタイプが少ないのでストレスに感じることはなく、楽しく入力できた。それぐらい久々、筆者にクリティカルヒットしたキーボードだった。
キーボードを使っていくうちに楽しくなってきて、レビューを書き上げてしまった
Unihertzマジック
このQWERTYキーボードは打ちやすさだけでなく、機能もこだわっている。まずはバックライトを搭載している点で、暗所でも打てるのがポイントだ。かくいうこのテキストも暗い部屋で、ベッドで横になりながら入力している。
ただ、デフォルトではバックライトが消えるタイムアウト時間が3秒と短く設定されているため、慣れるまでは10秒程度かそれ以上にしておいたほうが良いとは思う。
キーボードバックライトは10秒程度長めにとっておいたほうがいいだろう(この設定はディスプレイの中にある)
もう1つはスクロールアシストという機能。これは設定でオンにしてなおかつアプリケーション個別で有効に設定しなければならないが、なんとキーボード表面を軽く撫でることで画面タッチと同様にスクロールができてしまうのだ。ただでさえ小さい画面を指で操作すると、情報を覆いかぶさってしまうのだが、これを利用すれば回避できるわけだ。
またエディタで文字を入力していても、1回バックボタンを押して編集モードを抜ければ、キーボードから手を離さずスクロールできるので非常に秀逸だ。あわよくば、カーソル移動ができてほしかったのだが……。
スクロールアシストをオンにすると、キーボード表面を軽く撫でるだけでスクロールできる
キーボードを駆使したもう一つの機能がショートカットだ。こちらの機能もスマートアシストから設定できる。本機では主要キーのほかにfnとsym、側面にPPTと呼ばれる赤いボタンがあるが、こちらにも機能を自由に割り当てられる。標準では1回押しと長押し、ダブルクリックの3種類の動作を選べるが、カスタマイズができ、例えばfnキーにCtrlを割り当てた場合、fn+CがCtrl+C、つまりコピーとして動作するわけだ。
この中で割り当てられる「魔法キー」というのは、別途アルファベットに割り当てられる機能「キーボードショートカット」で使うもので、同時押しで動作する。
一例としてsymキーを魔法キーとして設定し、キーボードショートカットで「E」にエディタを割り当てた場合、どこの画面にあってもsym+Eでエディタが起動すると、いった具合だ(キーボードショートカットだけ設定したキーを押す場合、ホーム画面でしか有効にならない)。
ちなみに設定できるのはアルファベットの数だけあるが、長押しと短押しの両方で使い分けられるので、合わせて52個ものショートカットを設定できる。実際はここまで設定する人は少数だと思うが、それだけ自由度は高い。
設定画面は基本的にAndroid 11に準じているが、「スマートアシスト」が本機ならではの項目
スマートアシストで設定できる項目その1
スマートアシストで設定できる項目その2
ショートカットセッティングでは、sym、fn、PTTキーをカスタマイズできる
この中の「魔法キー」が、キーボードショートカットに対応する
キーボードショートカットをオンにすると、ホーム画面ではそのキーを押すだけで、アプリ起動中では魔法キーと同時押しでアプリを起動できる
カメラなどの機能
キーボード以外のポイントを見ていこう。まずはカメラだが、1,600万画素とされている。この点はJelly 2と共通で、実際の出力解像度も共通だ。採用センサーは公開されていないが、スペックからするにOmniVisionの「OV16880」だと思われる。サイズは1/3.06インチだ。
背面カメラは1,600万画素
カメラはTitan Pocketの強みではないが、実際の写りは悪くない。小さいセンサーゆえダイナミックレンジは狭いし、緑被りするのはJelly 2と共通。しかし色は十分鮮やかで、シャープな結像で輪郭はくっきりしている。ちょっとしたスナップやメモ用には十分すぎるほどの画質である。
作例
写真としてはレタッチする必要があると思うが、スナップ用には十分な画質だ
3.1型の液晶だが、かなり画素密度が高くドット感は皆無である。輝度の調節範囲も広く、暗所で眩しく感じることもなければ、直射日光下で視認性が悪いこともない。ただ1:1というアスペクト比ゆえ、ゲームをやるにはやや厳しい。縦長のゲームだとどうしても左右に黒帯が生じてしまい、画面自体も小さいので没入感に欠ける。キーボードを活用できるゲームならいいのかもしれないが、本機は基本的にビジネス向けだと割り切ったほうがいいだろう。
独自のツールアプリを搭載している点はJelly 2と共通。マイクを利用したノイズレベルの表示や、カメラを利用した角度の計測、ジャイロを駆使した水平の計測など、便利に使える。
小型ながら3.5mmヘッドセットジャックを搭載している点は称賛に値する。確かにBluetoothヘッドフォンはかなりメジャーになってはいるが、1つのヘッドフォンで複数のデバイスを切り替えて聴き取りたい場合は、再度ペアリングモードに入って接続し直す必要があるなど、使い勝手の面では3.5mmの利便性には及ばない。サブ機となる可能性が大きい本機で実装したのは賢明だ。
ちなみに3.5mmヘッドフォン出力の品質だが、ホワイトノイズが少なめで、わりかしフラットな出力。一応、音質を求めなければある程度音楽鑑賞に耐えうるレベルではないかとは思う。
また、Jelly 2にもあった赤外線リモコン機能も健在で、テレビやエアコンを操作できる。この赤外線機能はXiaomiのスマートフォンの多くで採用されているが、あまり採用例は多くない。
キーボードの中央上に指紋センサーを搭載しており、生体認証でログイン可能。このセンサーは反応がかなり良く、Jelly 2のそれより使い勝手は良かった。なお、ロック解除後はホームボタンとして機能し、長押しでGoogleアシスタントが起動する。
このほか、NFCは搭載しているが、FeliCaは残念ながら非対応だ。
右下。右側面は電源ボタンとPPTボタン、下部はUSB Type-C
左上。左側面は音量調節とSIM/microSDカードスロット、上部は赤外線ポートと3.5mmヘッドフォンジャック
本機はビジネス向けを想定していることもあり、アルミニウム合金による高い堅牢性の筐体を備えているのもポイントだ。その高い剛性は手にした瞬間ひしひしと感じることができ、ちょっとやそっとの落下で壊れることはなさそうだ。
ただ、Titanシリーズで搭載された防水機能は残念ながら非搭載。まあ、雨にちょっと濡れた程度で壊れるようなことはないと思うが、その点に注意しながら使用するようにしたい。
ちなみにデザインはタフネスを彷彿とさせるような、ゴツゴツとした形となっている。基本は直線をベースとした硬いイメージながら、側面が若干しぼんでいて、角が削ぎ落とされているなど、手にした際の感触も重視している。カシオのG-SHOCK似と言えばいいだろうか。好みは分かれるが、筆者は好きだ。
いかにもタフネスといった感じのデザイン
Helio P70の性能
最後にベンチマークテストを行なおう。今回行なったベンチマークはGeekbench 5とPCMark for Android Benchmark、それに3DMarkである。比較用に、同社のJelly 2と、ミドルハイエンドクラスのSnapdragon 730Gを搭載したXiaomiのMi Note 10の結果を並べた。