Titan Slim
iPhoneの登場で、スマートフォンにおける物理キーボードの搭載を否定され、選択肢がかなり減っているものの、その人気はやはり根強い。カジュアルにコンテンツを消費するスマホユーザーなら必要性は低いのだが、テキストをたくさん入力するクリエイティブ用途では、やはり物理キーボードが必須だ。
その市場に、2022年を代表する1台とも言える新たな選択肢「Titan Slim」が加わった。Unihertzとしては約1年ぶりの新キーボード付き端末となるが、その使い勝手のほどはどうか。発売前に製品を入手したので、レビューをお届けしよう。
液晶が縦長になり、だいぶおとなしいデザインとなったTitan Slim
本製品のレビューの依頼が舞い込んできた際に写真を見て、これは絶対ヒット作になるとすぐ確信した。Titan Pocketも素晴らしい製品であることに今も異論はないのだが、Titan Pocketの仕様に首を傾げ購入を躊躇ったユーザーの対し、Titan Slimはしっかり答えを提示した製品であるからだ。
Titan Pocketの最大の弱点は、アスペクト比がほぼ1:1の液晶であることだろう。もちろんテキストを打つ分には何ら不自由はない。だが普段遣いのための端末として見ると、撮った写真や動画の閲覧では画面の多くを黒帯が占めるし、Webページの閲覧でも情報量不足、ゲームだとキャラクターやUIが小さく表示されたりと、何かと不都合が多い。
その点、Titan Slimは1,280×768ドットという5:3、つまり16:9に近い液晶を採用。動画ではふたまわり以上のサイズで表示されるようになったほか、ゲームもかなり自然な感じでプレイできる。このメリットは非常に大きいと感じる。
Titan Pocket(右)は716×720ドット表示対応の3.1型液晶だったが、Titan Slimは1,280×768ドット表示対応の4.2型と大型化した
Web閲覧時、だいぶ情報量が増えた
写真や動画閲覧ではふたまわり以上サイズが大きくなる
ゲームなどでもUIに余裕が生まれ、凝視したり指を立ててタップしたりする必要がなくなった
もう一つTitan Pocketを選ばない理由を挙げるとすれば、ゴツくていかにも耐衝撃なデザインだと思う。このタフネスデザインは好みが分かれるところだが、Titan Slimは角ばっておらず、なめらかなエッジで光沢のある塗装の上品な背面となり、だいぶ普通のスマホっぽくなった。
なお、試作機にはあらかじめ保護カバーが取り付けられている。この保護カバーはラバー製のオーソドックスなものだが、背面は六角錐のパターンが施されていて、素の状態とは打って変わったタフネスっぽさを楽しめる。
普通のスマホと比べると厚みがある印象だが、物理キーボード内蔵であることを踏まえると頑張っている方だと思う。というより、これ以上薄くするとかえってキーボードでタイピングする際にホールド感が低下して使いにくくなることを考慮し、あえてこの厚みにした可能性はある。
ちなみに本体サイズは67.6×146.85×12.75mm(幅×奥行き×高さ)。幅はiPhone 13 Miniと同じクラスで、片手でも持ちやすい。もちろん、キーボード打鍵時は両手でホールドするとは思うが、Webページを閲覧する際に片手で操作できるのはメリットだ。ポケットへの収まりもかなりよく、Slimの名に恥じないサイズ感だと思う。
Titan Pocket(右)と比較するとだいぶおとなしいデザインの筐体となった
筐体はスリム化している
iPhone 13 mini(右)とほぼ同じ横幅で、片手でも握りやすい
カメラ部が出っ張っていないため、机の上に置いてもフラットだ
ちなみに製品ページで「片手でもタイピングできる」とあったが、試してみたところさすがにつらかった。確かに指は届くが、数字や記号などのコンビネーションは無理だし、重量があるためつらい。あくまでも「できる」だけで、実用的ではないと感じた。
というわけで、Titan Pocketの液晶を改善し、一般受けするデザインになったのがTitan Slimであると捉えれば、本製品の立ち位置が見えてくるだろう。
ちなみに本体の重量は203gで、付属ケース込みだと230gと比較的重量級。とは言え幅が狭く片手でもしっかりホールドできる上、キーボード入力時は両手で支えることになるのであまり気にならない。
本体背面は光沢仕上げで、光の当たり具合によって模様が変わる。指紋は付きやすい
付属していたケースはラバー製で滑り止め効果はかなり高い
本体単体では203gと重量級だが、あまり気にならない
ケースを取り付けると230gとなる
相変わらずその気にさせてくれるキーボード
Titan Pocketのキーボードについて筆者は好意的な意見を述べたが、それはTitan Slimになっても変わらない。手前が広く傾斜していて、キーのタッチミスが極めて少ないキーキャップの形状、Altキーとの組み合わせるかそうでないかの2択で明快な配列など、キーボードの使い勝手の良さで定評のあるBlackBerryの流れを汲んでいる点は高く評価できる。また、バックライトを搭載し、暗いところでしっかり視認できるのもグッドだ。
デザイン面で言えば、キートップの間のフレームはTitan Pocketのシルバーからブラックになり、野暮ったさはかなり減った。また、ZキーとEnterキーはTitan Pocketではちょっと小さかったが、同じサイズとなった。中央の指紋センサーはちょっとだけ横長になったといった違いがある。
QWERTYキーボードの配列はこれまで通り。バックライト付きで暗所でも見やすい
ちなみにTitan Pocketのレビューで、指紋センサーはホームボタンを兼ねているため、テキストタイピング中に誤ってタッチしてしまってホームに戻ってしまうという問題を指摘したが、これはすでにTitan Pocketのアップデートで改善済みで、Titan Slimにも反映されている。
具体的には設定の中にある「スマートアシスト」→「さらなる設定」の中で「ホームボタンの機能」なる設定が追加されていて、「HOMEボタンをダブルクリックして画面をロックします」という(日本語訳がやや妙だが)項目を選ぶと、単に触れただけではホームに戻らないようになった。慣れれば誤操作の頻度が減るが、どうしても多発する場合は有効にするといいだろう。
Titan SlimでもKikaーKeyboardと呼ばれる物理キーボードに特化したIMEがプリインストールされている。筆者がTitan Pocketのときに試したバージョン2021.4.9−1.67では、Shiftキーを押して最初のアルファベットを入力したあとはなぜか英字入力が続かない仕様だったが、Titan Slimの試作機に入っている2022.1.6−1.67ではほとんどのIMEと同じく、Enterキーで確定するまで英字入力モードになる(こちらもTitan Pocketのアップデートで対応済み)。
ただ、入力の設定で「仮想キーボードの表示」をオンにしていると、なぜか英文入力を確定したあとはカタカナモードに移行してしまう。このモードの切り替えがShiftキーだからだろうが、仮想キーボード非表示の状態では英単語確定後はひらがなに戻るので、バグだと思われる。
「HOMEボタンをダブルクリックして画面をロックします」を選ぶと、指紋センサーのダブルタップでホームに戻る挙動となるため、タイピング中に指紋センサーにうっかり触れてもホームに戻らなくなる
Kika-KeyboardでShiftキーを押して英字入力に一時的に切り替えても、終了時はカタカナ(正確には次のモード)に切り替わってしまうのがネック
仮想キーボードは変換候補を表示する役割があるほか、英文切り替えが即座に行なえ、顔文字パネルもすぐに呼び出せるので便利だが、変換候補がそれほどなく英単語混じりのテキストを多く入力する場合は、現状では使わないほうが良い、ということになる。製品版もしくは今後の改善を望みたい。
話が少し逸れたが、ソフトウェアの問題なので対処は可能だろう。物理キーボードの完成度について筆者は文句なし。かくいうこの記事もすべてTitan Slimで書いているが、ソファに座ってリラックスした姿勢でじっくり文脈を吟味しながら書けるこの感覚は、ほかのスマホやPCでは得られないものだと思った。
このレビュー記事もソファに座ってくつろいだ姿勢で執筆した。ちなみに本文の入力自体は「QuickEdit Text Editor Pro」を利用したのだが、Tabが入力できないため、編集はスクリーンショットでも使用しているエディタ「Jota+」に切り替えた
ショートカットやプログラマブルキーは健在
Titanシリーズの特徴の1つに、物理キーボードおよびプログラマブルキーを活用したショートカット機能が挙げられるのだが、Titan Slimでもこの機能を踏襲している。
ショートカットは、キーを長押しすると指定したアプリを起動する機能。基本的にはホーム画面でしか機能しないが、プログラマブルキーを「魔法キー」として割り当てた場合、同時押しで機能する。例えばsymボタンを魔法キー、CキーをChrome起動に割り当てた場合、どのアプリを使っていてもsym+CでChromeが起動するといった感じだ。
一方プログラマブルキー(設定→スマートアシストではショートカットセッティングという名称)は、sym、fn、および左側面のPTTキーの3つ。通話の録音や懐中電灯の起動といった便利な機能が割当できるほか、CtrlやTab(PTT以外)キーとして動作させることもできる。
Titan Slimの独自機能を設定するスマートアシストメニュー。設定画面からアクセスできる
キーボード表面がタッチパネルとなっていて、軽く撫でることで画面のスクロールなどが行なえる「スクロールアシスト」機能については健在。これならこの小さい画面でもスクロールする際に指でコンテンツを隠してしまうことも防げる。
ただ、このスクロールアシストをオンにすると消費電力が微増するようで、バッテリ残量が5%以下となった時点で無効化されるという。このあたりは本当に必要かどうか見極めて有効にしてもらいたい。なお、この機能のオン/オフは画面上部からドラッグインすると表示されるクイック設定パネルから即座に行なえる。
プログラマブルキーは3つで、機能を割り当て可能。Titan Pocketのレビュー時と比較すると新たに「TAB」が増えているのが分かる。これは筆者的にありがたい(PC Watchでは使う)
キーボード表面を撫でることでスクロールできる「スクロールアシスト」は健在
省かれた3.5mmミニジャックと大幅強化のカメラ
インターフェイスを概観していこう。有線はUSB Type-Cのみとなり、Titan Pocketから3.5mmミニジャックが省かれた。Type-Cからの変換も付属しないという割り切りようだ。このところ完全ワイヤレスヘッドフォンが台頭してきているので、不要になったという判断だろう。
その一方で堅持しているのは赤外線リモコン機能で、引き続き赤外線対応の家電を操作できる。これはJelly 2など同社おなじみの端末で搭載している機能なのだが、Titan Slimは液晶の大型化で操作しやすくなっている。
本体右側面は電源ボタンと音量調節
本体左側面はPTTボタン(プログラマブルボタン)のみ
本体上部に赤外線出力部が見える
本体底面はUSB Type-Cやスピーカー/マイクの穴が見える
Unihertzのスマホは一貫してカメラ性能について強調していないのだが、/2インチサイズのGM1センサーを採用した。これは1/3.06インチの「OV16880」を搭載したTitan Pocketから進化している。GM1センサーは標準で1,200万画素、ソフトウェア処理により4,800万画素の出力に対応する。
スペック上は大きく進化しているのだが、実際の絵は比較的地味だ。半逆光環境下では白飛び気味で、暗所もあまり粘っておらず、ややノイジーだ。暗所撮影性能についてはダイナミックレンジが狭いほか、ホワイトバランスもTitan Slimのほうが黄色かぶり気味といった印象。このため御飯ものはあまり美味しそうに撮れない。
作例(大きな画像で開きます)
順光環境での写り。空がちょっとノイジーで黄色かぶりしている印象だ
半逆光だと空の色がだいぶ薄くなる。ディテールに関しては頑張っている
F1.7なので近距離はまずまずボケる
室内では色が薄くなり黄色かぶりするため、食べ物はあまり美味しそうに撮れない
1,200万画素サンプル
4,800万画素サンプル
ただ、Titan Pocketは小さいセンサーゆえすぐにISO感度が上がり、ディテールが潰れ気味になるのに対し、Titan SlimはISO上昇を控えそこそこシャープな絵で頑張っている。また、手ブレ補正も効くようになったため、撮影のシチュエーションはやや広がった。
一方で同じGM1センサーを搭載するTickTockと比較すると、やはりTickTockのほうが新しく強力なISPを搭載している分暗所に強く、絵も明るめで好印象。RAW(DNG)ファイルの保存ができるのもTickTockのみであり、やはりプロセッサなりの一定の差が存在する。
プロセッサはTitan PocketのP70を踏襲
カメラセンサーの変更や3.5mmステレオミニジャックの廃止など、ハードウェア的に変更点が多いのだが、実はプロセッサはMediaTekのHelio P70、メモリは6GBと、主要スペックはTitan Pocketと全く同じ。アプリの使用感はTitan Pocketと共通だ。ストレージは128GBから256GBに増強されているが、今回の試作モデルは128GBである。
といったところを踏まえてベンチマークしてみたが、Titan Pocketとほぼ同じスコアとなった。SoCが全く同じなので当たり前と言えば当たり前だ。これは今どきのスマートフォン低い数値なのだが、本機の用途がビジネスであることを前提とすれば不足のない性能としてまとめることができるだろう。